エーベックスとの提携

創刊から2、3年の間、『脱気保存器』(独・ペトラ社)、『万能スライサー』(独・リッター社)、『業務用ジューサー』(米・メトロケーン社)、『ゴールドフィルター』(スイス・エルフォ社)、『ハンディ型アイロン』(独・ロヴエンダ社)、『青木式室内干し』、『田村勝彦のグローブバッグ』といった「街では入手しにくい商品」がそこそこ売れては消えていった。
ヒット商品がなければ経営は苦しい。
『ルームランナー』以来つくってきた貯金が底をつきかけてきたので、資金を補充するために『小林克也のアメリ缶』という英語教材をつくって新聞、雑誌広告でアルバイト(通信販売)して食いつないだ。
言ってきたが、私は楽観的だった。
定期購読者数がこのころ50万人に手が届くところまできていたからだ。
誌代が1冊150円(当時)と安かったせいもあったけれど、「街では入手しにくい商品」にこだわりつづけたことで、消費者は『通販生るさ。
誌代は送料で消えてしまうくらいの金額だから、商品が売れないことには赤字だったけれど、『通販生活』は消費者に認知されつつあるぞという手応えはつよく感じていた。
創刊から5年過ぎた87年、通信販売の神様がやっと私の存在に気づいてくれた。
それまで売れていなかったデロンギ社(イタリアの大手家電メーカー)のオイル内蔵型パネルヒーター(通称・デロンギヒーター)について、売り方のヒントを授けてくれたのだ。
『デロンギヒーター』は、例によって代理店がもて余していた不人気商品だった。
構造的にあまり曖かくならないヒーターなので、それまでわが国のデパートではさっぱり売れていないヒーターだった。
もともとはヨーロッパでも補助暖房機として使われていて、「温風を出さずに持する。
温風を出さない、空気も汚れにくいところからヨーロッパではかなり普及していたが、からとり上げていたが、さっぱり売れなかった。
「補助暖房では売れないよ。
いっそ主曖房として売ってみたら」……これが通信販売の神様が私に贈ってくれたヒントだった。
このヒントが、その後の『通販生活』の売り場(商品の選び方と売り方)づくりを決定することになった。
大げさに聞こえるかもしれないけれど、このヒントが今日の『通販生活』の礎をつくってくれた。。
秋号に掲載したそのときのコピーを引用するから、神様がくれたヒント(傍点個所)に注意して読んでみてください。
[寝室に置いておくと、ひと晩中ホテルに泊まっているような快適さ。
]暖房でいちばんすぐれているのはホテルでしょう。
一流のホテルはセントラルヒーティング(スチーム暖房)でつねに一定の室温を保っているので、泊まっていて、夜中暑苦しくなることもなければ、朝起きてふるえ上がることもありません。
この「つねに一定の室温を保つ」のがオイル式パネルヒーターです。
パネル内に油が入っていて電気を入れるとこの油があたためられて放熱、ちょうどスチーム暖房のお湯の役目を果たすのです。
これをひと晩中、たとえば室温25度の日やすでつけっ放しにしておくと、25度をこえたところで自動的にスイッチが切れ、室温が少し下がったところでまた自動的にスイッチが入る……この広告によって『通販生活』の売り場づくりに開眼した(87年秋号)。
という、ついたり消えたりのくり返しをしてくれます。
ひと晩中寝室につけておく。
唯一の欠点は、部屋があたたまるまで30分くらい(季節によって変わる)かかることですが、このヒーターの目的は「長時間つけっ放しで一定室温を保つ」ですから、そもそも利用目的が違います。
このコピーに、「寝室にこのヒーターが置いてある写真」を添えて掲載した。
いま読み返してみると「温風を出さないから、のどが痛くならない」という肝心の特長にふれていないずいぶん舌足らずな説明だったけれど、使用価値を変えて寝室用として伝えたところがミソだった。
そのときもたしかめてみたことだが、ヨーロッパでもオイルヒーターを寝室に限定して使う習慣はなかったそうだ。
創刊以来初めての大ヒットになった。
以来、17年を経過したいまでも年間売上げベスト5から落ちたことのないバリバリの現役だから、累計すると『ルームランナー』どころではない売上げをつくってくれたことになる。
ヒットした理由は、1にも二にも寝室用にしたからだった。
考えてみたら、それまで寝室用のヒーターなんてなかったのだった。
そして、寝室用のヒーターを欲しがっている消費者は沢山いたのだった。
『デロンギヒーター』に託して通信販売の神様が私に贈ってきてくれたヒントを言い直すと、「使用価値を自分の頭で考えてごらん」というものだった。
『デロンギヒーター』を居間用の主暖房機と捉えると、海風を出さないからあまり曖かくならないヒーター、つまり物足りないヒーターになってしまう。
補助暖房機と位置づけると、主暖房のエアコンといちいち使い分けるのは面倒くさいとか、エアコンを切ってこちらに切り替えた後どのくらい居間の温度が維持できるのかといった不安が残ってしまう。
ところがこれを寝室用の主暖房として使えば、「あまり曖かくならない」は「ひと晩中、おだやかな暖かさで眠れる」になり、「温風を出さない」は「寝ていてものどが痛くならない」になるのだった。
寝室用としての使用価値を説明することで、わかりにくい商品がとたんにわかりやすい商品に変るのだった。
八〇年代後半期、街には同じような商品が充ちあふれ、すでに飽食している消費者の食欲をさらにかき立てるためにせわしないモデルチェンジが行われていた。
別な言い方をすれば、わが国の消費者たちは便利が生み出す不便、その不便を解消する便利、その便利が再び生み出す不便……といった便利の無限競争に巻きこまれていた。
そんな状況の中で、通信販売の神様が『デロンギヒーター』に託して授けてくれた教訓は、「使用価値は売り手が変形していい」「買う人のイメージをきみの好きなように固めて売ってごらん」だった。
ここは私の通販人生にとってとても大切なところだったので、あらためて『ピカイチ事典』のコピーから使用価値説明の部分を抜粋しておく。
まず、エアコンの「曖」をつけっ放したまま、ひと晩眠る風景を想像してみてほしい。
吹きつけてくる温風でのどが痛くなる、そのうち暑くなって布団を蹴ってしまう、音が耳ざわりで眠れない。
エアコンは寝室用としては失格だろう。
まして、換気の必要性や臭気の点で、石油ヒーターやガスヒーターは寝室用としては問題外だろう。
デロンギはなぜ、寝室にいいのか。
管の中を熱湯がかけめぐり、その蒸気で寝室を暖める戦前の「スチーム暖房」、理想的な曖房といわれるその原理をそっくり応用しているからである。
半永久的に交換の必要がない「難燃性オイル」がパネル(管)内部に密封されている。
そのオイルが電気の熱で暖められてグルグル循環し、パネルを通して室内の空気を暖めていく。
オイルがスチーム曖房のお湯の役割を果すわけである。
したがって、熱からず、寒からずのおだやかな室温で一定してくれる。
さらに、酸素を燃やすわけではないので、室内の空気が汚れることはない。
当然、換気の必要もないし、のどがカラカラになることもない。
このコピーは、という三つのキィワードでつくられている。
八〇年代に普及したエアコンは曖房能力である「温風」が肉体に負荷を与えるという新しい不便をもたらしていた。

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